ハラスメントの防止を主眼としたアンケート
教育学部では、いわゆるハラスメントの実態調査を主眼としたアンケートとは異なり、ハラスメントの防止を主眼としたアンケートを実施しています。これは、当該の事例に関して、人によって感じ方が異なることを浮き上がらせ、それをきっかけにして学部構成員(学生及び教職員)間で話題となることにより、常にハラスメントについて配慮する修学環境を生み出すことができたらと考えたからです。
アンケートは、始めに回答者についての設問があり、その後4つのハラスメントの具体的事例を示し、被害者側、加害者側、それぞれの立場になった場合の心情、行動などについて設問で聞いています。
平成18年度に実施したアンケートの集計結果の要約を紹介します。アンケートは、無記名で、学生には主に授業時などに配布を行い、時間がある場合は授業の最後に回収し、時間がない場合は学務係の回収ボックスに入れてもらいました。教員へは、教授会の折に配布し、学務係の回収ボックスに入れてもらいました。アンケートの回答者総数は990(有効回答数934)でした。内訳を示します。
有効回答数 | 学部学生 | 大学院生 | 科目等 履修生 |
教員 | 事務職員 | その他 | 回答控える |
934 | 825 | 55 | 2 | 33 | 12 | 1 | 5 |
学生の回答率は約75%でしたが,教員の回答率は41%と低くなりました。男女比は,男性36%に対して女性63%(回答控える1%)でした。これは、学部の女子学生の比率が高いことが影響しています。このアンケートの中で4月に配布したパンフレットに関して聞いたところ,以下のような結果となりました。
『今年4月に配布された教育学部のハラスメント防止パンフレットをご覧になりましたか。また,ご覧になってハラスメントに対する理解は深まりましたか。』「パンフレットを見ていない」という回答が4割近くあったことは,パンフレットは手にしたが,パンフレットを見ていない学生がかなりの数に上ると予想されます。このことは,ハラスメントに関心を持たない学生が潜在的に多いことを示しており,粘り強くハラスメント防止の啓発活動を行うことの必要性を示しています。一方,「ハラスメントに対する理解が深まった」という回答が3割あり,パンフレットによる啓発の有効性がある程度実証されたものと考えています。
次に、具体的なアンケートの事例を紹介します。授業中の内容です。あなたも、この事例を読んで回答してみてください。
事例2.授業において教員: | 『では,どうしてこのような問題が生じたと思うかね。その背景を誰か説明できるもの? C君どうですか?』 |
C君: | 『はー,よくわかりません。』 |
教員: | 『前の授業で説明しただろう。聞いていなかったのか?では,Aさん。』 |
Aさん: | 『その頃,中国では・・・』 |
教員: | 『ダメダメ。ぜんぜん違うよ。前の授業で何を聞いていたの?寝てたんじゃないの。もう,しょうがない。じゃ,Fさん。』 |
Fさん: | 『はい,その頃日本政府は・・・』 |
教員: | 『うん,よろしい。さすがFさんだ。きちんと復習しておるな。それにひきかえ,何だ他の者は。相変わらず,出来が悪いな。少しは,勉強する気があるのかね。じゃ,Fさん。次の問題についてはどう思う?』 |
Fさん: | 『はっ,はい。それは,・・・・』 |
教員: | うん,よろしい。私も同じ意見だよ。じゃ,Fさん。3番目の問題についてだが・・・』 |
という具合に,授業は教員とFさんとのやり取りが主体で進行していきます。他の学生は,ほぼ毎回黙ってそれを聞いているだけです。
問8 | この授業における教員の態度・発言について,あなたはどう思いますか。あなたの考えに,最も近いと思うものを下から選んでください。 | |
A. | 特に問題はない。 | |
B. | Fさんばかりとやり取りをして, |
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C. | 態度にも,発言にも問題がある。特に『それにひきかえ,何だ他の者は。相変わらず,出来が悪いな。』という発言は,他の学生の学習意欲を損ないかねない発言であり,慎むべきである。 | |
D. | その他 |
問9 | もし,あなたがFさん以外の学生であったなら,あなたはどのような行動をとりますか。最も近いと思うものを下から選んでください。 | |
A. | Fさんのように,授業についていけるようもっと勉強をする。 | |
B. | 特に何とも思わないので,何の行動も起こさない。 | |
C. | 教員の態度や発言は,快く思わないが,特に何の行動も起こさない。 | |
D. | Fさんばかりが |
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E. | Fさんが |
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F. | 学生相談室へ,この授業を改善して欲しいと相談に行く。 | |
G. | その他 |
〔コメント〕
問8の回答分布をみると、学生、教員ともに、8割~9割の人がこの授業時における教員の発言・態度には“問題がある”(“ハラスメントである”と見なしているかどうかは別として)と回答しています。この点においては、学生と教員との間に差はないと言えます。問9のその後の行動に関する回答分布をみると、“何の行動も起こさない”とした学生が5割を超えたのに対して、教員では3割余りと学生と教員との間に差が表れました。また、両者に言えることとしては、何らかの改善を目指した行動をとる学生、教員ともに4割以下であることです。この事例がハラスメントにあたるかどうかは、当事者間のそれまでの信頼関係や状況によって、受け取る側がどう感じるかと、その感じ方がどのくらい合理性を有しているかによります。つまり、授業者として不適切な言動がすなわちハラスメントとなるわけではありません。しかし、この事例のような状況が続くことは、学生が必ずしも学びやすい修学環境にあるとは言えないでしょう。その改善を図る努力が、学生にも、さらに教員にはより強く求められると言えます。